令和6年(2024)10月30日(水)、東京都都市センターホテルで開催された、全国自治体病院経営都市議会協議会主催の「第18回地域医療政策セミナー」に参加しました。
協議会会長の喜多浩一金沢市議会議長から挨拶があり、その後2件の講演を聴講した。
1件目は、厚生労働省大臣官房審議官(医政、口腔健康管理、精神保健医療、災害対策担当)(老健局、保健局併任)森真弘氏による「令和6年能登半島地震を踏まえて~災害時の医療体制構築と今後の地域医療維持、確保の課題~」の講演だ。
●自治体が災害が発生する前(平時)から医療施設等に備えて欲しいこと ①避難に関する注意喚起を行う ②非常用自家発電設備(設備・燃料の確認等)、水や食料、医療資源等の備蓄状況の確認 ③医療機関の連携体制の構築・確認
●平時より地域の医療事情を知らねば、災害時に的確な支援はできない
●能登半島地震の後、これから ①人口減少や高齢化の状況を加味した平時からの医療計画の実現 ②平時や災害時にとらわれない、地域のレジリエンス向上に向けた施策の継続
●災害医療の体制の見直し ①DMAT・DPATの派遣や活動の円滑化や様々な保健医療活動チーム間での多職種連携を推進する ②災害時に拠点となる病院や他の病院が、その機能や地域における役割に応じた医療の提供を行う体制の構築 ③豪雨災害の被害を軽減するため、地域と連携して止水対策を含む浸水対策を進める ④医療コンテナの災害時における活用を進める
●災害拠点病院について 災害時に多数発生する傷病者、被災した医療機関の入院患者に対して、災害拠点病院を中心として、被災地内外の医療資源を活用できる医療提供体制の整備
●災害医療コーディネーター 医療コーディネーターとの連携、DMAT等の医療チームの派遣調整を実施する人材
●広域災害・救急医療情報システム(EMIS) 基本機能として、医療機関基本情報と被災医療機関の緊急情報他を有する
●事業継続計画(BCP) 病院機能の損失をできるだけ少なくし、機能の立ち上げ、回復を早期に行い、継続的に被災患者の診療を行うための計画 ①病院等における耐震診断・耐震整備の補助事業 ②医療施設非常用自家発電装置設置整備事業 ③医療施設給水設備強化等促進事業 ④医療施設浸水対策事業 ⑤医療施設等の災害復旧に対する補助金事業
●地域医療構想について(今後の展望) 地域ごとに必要医療数を見直さなくてはならない。医療需要の変化:入院患者数は 、外来患者数は、在宅患者数は
●「高齢者の急増」から「現役世代の急減」に局面が変化
●医師の高齢化も進む
以上を包括した新たな地域医療構想については、2024年ごろを見据え、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大に対応できるよう、病院のみならず、かかりつけ医機能や在宅医療、医療介護等を含め、地域の医療提供体制全体の地域医療構想として検討予定
阪神・淡路大震災や東日本大震災に続く能登半島地震から導き出された、「救急医療と災害医療とはちがう。しかし、救急医療ができなければ災害にも対応できない」という視点での説明は、とても納得できる有意義な講演でした。
2件目は、まんのう町国民健康保険造田歯科診療所主任歯科衛生士の丸岡三紗しによる「県内一の過疎地域での挑戦!こどもも若者も高齢者も大事にするまちづくり~高齢者のためのお買い物ツアーや移動支援&児童館のないまちで取り組む子どもと子育て世代の居場所づくり」の講演だ。
香川県もんのう町琴南地区では、「人の健康を守るのは医療だけではない」を掲げて、医療関係者に民間を加えた在宅医療・介護の連絡会を設け、月一で集まってケース検討などを行っている。民間を入れることでフラットな運営ができることとなった。
ここでは「社会的処方」がフレイルの改善になることを活動の主眼に置いている。「社会的処方」とは、地域とのつながりを処方することで問題解決を図るというものだ。例えば、診察室で患者さんが「さみしい、日ごろ話す相手がいない」と言ったら「では、このサークルはどうでしょう」と地域の資源を紹介してその場で連絡を取る対応の仕方。
「健康を目的としたアプローチは本当の予防が必要な人には届かない」ということだ。
運転免許証を返納するとフレイル(虚弱)になるのか。足がないから買い物に行けなくなったストレスで痩せた事例が多くある。移動手段がないのは重要であることから、『週1で買い物ツアー』『無料通院バス(町からの補助)』を実施した。
唯一の中学校が廃校になる。そこを活用し地域住民が集えるコミュニティスペースを作った。需要は子育て世代にある。地元クリエイターと協力し、子育て世代のための居場所づくりを開始した。旧琴南中学校がみんなのコミュニティスペースとなった。今の時代の子育て支援に必要なことは「親御さんを楽にしてあげること」だ。
目の前の一人ひとりの困りごとを真剣に聞き、一つ一つ解決していく、その地道な積み重ねがまちづくりだ。
こんな近くに、こんなにクリエイティブでバイタリティのあふれた人がいたのに、気づいていなかったことに深く反省しています。「社会的処方」という視点は医療・介護・子育てなどの社会的課題を、地域資源をもって解決していこうとする、まちづくりの本質を射抜いています。市民ニーズと解決方法は、行政の中だけではない社会の中にあるという、当たり前のことを再認識させられた講演でした。
「地域医療政策セミナー」研修報告を終わります。