第2部 福島大学経済経営学類准教授 国土交通省交通政策審議会地域公共交通部会臨時委員 吉田樹氏 から、「次世代交通サービスと暮らしの足の確保に向けた協働の進め方~自治体と交通事業者等の連携━交通サービスの開発と運営~」の講義があった。
地方行政の公共交通政策は「何のために」必要か。高齢者の移動手段確保に注目が集まるが、実は、市民生活を支える地域公共交通の多くは不採算であり、自家用車で移動する人が「移動手段確保」を考えるのはなぜか。また、すでに都市圏でも営業所撤退や大幅減便、補助金要望がきている。このような現状で、「公共交通政策を移動困難者対策」ととらえていては、移動困難者対策も公共交通再生も地域再生も果たせない。
地域における「くらしの足」が抱える問題は、大きく3点ある。①自家用車を運転しないと活動できない ②目的地が多様化して小口化している ③交通を支える担い手が不足している がある。福島県南相馬市民の後期高齢者の「5年前の外出状況との比較」アンケート調査で、自家用車の運転を中止することで、活動機会が低下し「楽(愉)しいお出かけ」が失われつつある現実がある。そこから推察されることは、「交通の躊躇は、果たして本人の積極的な選択なのか」「外出しにくい環境は、社会が作っているのではないか」「交通への不安が高い地域は、将来も生き残れるのか」ということだ。
交通政策基本法(2013施行)にある交通に関する施策の推進にあたっての認識は、①「生活」を支える「くらしの足」としての地域交通 ②「交流」を支える「おでかけの足」としての地域公共交通 であると解釈できる。よって、『地域公共交通マネジメント』は、市民の「くらし」を守り、「交流=おでかけ」の機会をつくる地域公共交通を、ビジネス(経済)と合意形成(社会)で創出・継続するプロセスといえる。
今、求められる『地域公共交通マネジメント』は、「空間やコンテンツ」と「モビリティ」を両輪で考えることだ。「魅力的な空間やコンテンツ」は、地域ごとに「異なる魅力」(賑やかな街、豊かな郊外・・・)があることで、交通行動は生まれる。そこには、土地利用計画、施設整備計画、観光政策・・・との関連がある。「魅力的なモビリティ」については、MaaS・自動運転・オンデマンド交通などは、手段であって目的ではなく、既存の公共交通を含めた、「新たなモビリティツール」が市民の交流を促し、暮らしを支援する機能を持つことが重要だ。
青森県八戸市における、「共同運行化」と「マネジメント」の実証事例は、事業者間の調整機能による競争政策から「共創政策」への転換において、分散する路線を「事業者連携」によって、公共交通の品質の向上を実現した。また、栃木県足利市の地域公共交通網の「面的」な再構築の事例では、クルマ社会の地方都市でも、みんなが「好んで」マイカーで外出しているわけではなく、「需要に応える」だけでなく、「ライフスタイルの提案」が鍵であった。それは、公的支援の考え方として、「赤字だから支援する」発想ではなく、「おでかけ機会を広げる投資」ととらえているからだ。さらに、会津若松市と青森県田子町の事例では、「束ねて×減らす」の視点で、生活路線と観光路線や医療機関搬送バス、スクールバスを統合一本化するなどして、生産性向上を実現した。
他に、●生活圏単位のネットワーク再構築 ●次世代モビリティサービス━MaaS ●公共交通に求められる「見せ方改革」 ●超高齢社会のMaaSとタクシーへの期待 ●地方都市のタクシー定額制サービス ●「デマンド交通」の課題と展望 ●「のりしろ」で「くらしの足」を豊かにする ●MaaS構築に求められる「眼差し」 があった。
最後に、3点にまとめる。①公共交通づくりは「おでかけ」の機会を広げる投資である。「赤字補填」「赤字は問題」という論理から、「おでかけ機会」を確保するため、公共交通へ「投資」するという発想に転換したい。 ②地域公共交通もMaaSも、地域生活と交流を支える「道具」である。「使ってもらってなんぼ」だからこそ、カイゼンが必要だ。 ③地域公共交通マネジメントは、地域創世のけん引役であり、MaaSはその土台となる。地域公共交通は、「現場の近さ」が特徴で、「くらし」と「おでかけ」の足の議論はまちづくりの「第一歩」だ。それぞれの地域にあった「地域公共交通マネジメント」の確立こそが地域創世につながっていくのだ。
「くらし」と「おでかけ」の足の確保に向けた協働の進め方の実践を通して、示唆に富んだ貴重な講義を聴くことができたことに、心から感謝します。地方公共団体と民間事業者との協働によって、好きな時に好きなように好きなところへ移動できるツールとしての地域公共交通が、実は魅力的なことや場所を有機的につなぎ成長させるキーツールになることに、大きな気付きをいただいた講義でした。小林一三や後藤慶太、堤康次郎など、鉄道というモビリティで活力あるまちを建設していった先人の執念と発想に、時代は変われども地域創世はここにありと感じています。