連日の35℃を超えるうだるような暑さの日々の中、7月24日(月)地方議員研究会の研修に参加しました。講師は、三豊市議会で計画をしている永康病院調査特別委員会の議会研修で講師をお願いしている、城西大学経営学部教授の伊関友伸(ともとし)先生です。「地域消滅の時代における医療・介護を考える」のテーマで2件の講義を受講しました。
1件目は『地域を消滅させないために何が必要か━持続可能な医療・介護』です。
これからの日本に確実に起きるのが、本格的少子高齢社会の到来だ。昭和22年~24年生まれの団塊の世代が高齢化する2025年に向けて、急激に社会変化が進む。都市部と地方でその変化がことなる。都市部では、後期高齢者の急増で【医療・介護資源の絶対的不足】となる。地方では、人口の急減で自治体の消滅が相次ぐことが予測される。
日本の合計特殊出生率は、平成25年で1.43だ。フランスは2.01、アメリカは1.93だ。このままの出生数で推移すると2008年に1億2,808万人いた人口が2110年に4,286万人に減少する。将来的には、日本そのものが消滅する可能性すらある。
なぜ日本の合計特殊出生率が低いのか?
①非正規雇用など若年層の雇用不安がある。若年層で給料が安い、身分が不安定などにより、結婚できない、子どもをつくれない人が増えている。
②女性の晩婚化と出生数の減少がある。女性が晩婚化し、他国に比べて出産年齢が高くなり、出生する子どもの数も減少している。また、出産すると会社を辞めなければならない現実がある。
③若年層の東京圏への移住傾向がある。合計特殊出生率が非常に低い東京圏に移住する傾向が強まっている。そのことが結果として、日本の合計特殊出生率をさらに押し下げることとなる。
次に、医師不足問題を考える。不測の原因はいくつかある。
●少ない医師数 これまで国は、昭和40~50年代の医科大学の新設ブームの反動で、医師数の抑制をする政策を行ってきた。
●医療の高度・専門化 医療は世界レベルで日々進歩していおり、20年前であれば1人の意思が患者の病気を診ていたが、現在では複数の専門科の医師が1人の患者の疾病を見ることになる。
●人口の急激な高齢化 高齢者は、がんや生活習慣病など、長い期間医療を受ける病気にかかることが多い。また、体調を崩す高齢者が救急外来に数多く集まり、救急病床は高齢者でいっぱいという病院も多い。そのため、病院で亡くなる割合が増加しており、病院での見取りの増加は、医療者の負担を増やすことになる。
●インフォームドコンセント 医療現場に、インフォームドコンセント(患者への十分な説明と同意)が入り、医師の仕事が増えることとなる。
●女性医師の増加 男女共同参画の考えから、女性医師の数な年々増えている。出産や子育てで、臨床の現場から離れる人が多く、男性も女性も子育てがしやすい社会をつくる必要がある。
●劣悪な労働環境 少ない医師で多くの仕事をこなさなければならないことから、日本の医師の労働環境は非常に劣悪な状況になっている。特に産科、小児科、救急などの現場では、過労死寸前の状況になっている。
●新臨床研修制度(2004年)と医局制度の崩壊 新人医師が研修を受けたい病院を選び、病院側の希望を調整するマッチングの制度が導入された。これにより、若い医師の多くが都会の大病院を研修先に選ぶ結果となって。
その他、●国民の医療への不理解 ●健康について不勉強な患者の存在 ●患者のコンビニ医療指向 等がある。
医師不足は、次のような現状を招いている。
急性期を指向する医師は、高度・専門化に対応するために、医師の多い病院に集まる。医師の集まる病院に、さらに医師が集まるという構造になっている。その結果、成長する病院と衰退する病院の2極化現象が起きている。
地域を消滅させないためのもう一つの視点として、持続可能な医療・介護を支えるために、医療介護人材をいかに集めるかだ。本格的少子高齢化にあって、若者の減少はさらに進み人手不足が深刻化する。平成に入っての18歳人口は、当初200万人いたのが20年で80万人減少し120万人程になった。ここ10年は横ばいだが平成30年ごろから10年後の40年にかけ、さらに2割ほど減少し100万人を切ると予測されている。
これから一層深刻化するのが看護師不足だ。今後、超少子高齢化のため、都市部を中心に看護師の需要が急増するが、子どもの絶対数が少ないため、看護師の養成数にも限界がある。その中で、看護師不足で運営をできなくなり、無床化診療所となるところも出てくる。また、介護人材も不足する。わが国の2025年度の介護人材の需要見込みは253.0万人だが、供給見込みは215.2万人であり、需給ギャップが37.7万人となり、全ての都道府県で介護人材の不足が発生する。それでは、医療介護人材をいかに集めるか。将来に向けては、何よりも合計出生率を上げることが大切だ。
つまり、地域を消滅させないために合計特殊出生率を高めるよりほかにない。2030年までに合計特殊出生率が2.07に回復すれば、2090年代には人口減少は収束する。2110年の総人口は9,661万人を維持できる。合計特殊出生率を高めるためには
①正規雇用を増やす 地方における医療・福祉分野の雇用を増やし、若者の正規雇用を増やし結婚しやすくする。地方において医療福祉は唯一の就業者が増加している分野で、地域経済への波及効果が大きい。
②女性が子どもを産みやすくする 育児の費用支援、育児休業や保育拡充など、子どもを産みやすい環境の整備が絶対に必要だ。将来への投資としての子育て政策は重要だ。
③若者の流出を抑え、若者を受け入れる 地域おこし協力隊など制度を活用して都市から若者を受け入れることや、都市部から医療福祉の人材を招く取り組みが重要だ。
それでは、地域に医療人材を招くためには、研修機能の充実がなければ人は集まらない。条件の悪い地方の病院こそ医師・看護師などの研修機能を充実させ、人材を集める病院にしなければならない。新しく創設された「総合診療医」があり、地方の小規模病院でも研修教育施設の取得が可能なように制度設計が検討されている。
研修を充実させることで医師数を増やした病院に、京都府福知山市民病院がある。「教育がなければ病院に未来はない」と考え、2008年度に総合内科を立ち上げ、医師研修を積極的に行う。熱心な指導が評判となり、総合内科を志望する医師が多数集まる病院となった。
地域枠の医師・医学生の研修受け入れを積極的に行うことも重要だ。医師・看護師を含めて、医療職の研修体制を充実することが必要だ。あわせて、若い医療者が勤務するための積極的なアピール戦略がいる。「看護師報酬」や診療報酬加算を取得するための「看護師の資格制度」「認定看護師」なども考えられる。特に、感染防止対策の管理者養成は重要性が増している。
次に、介護関係職員の不足にいかに対応するのか。介護現場のイメージが低賃金や過酷さだけを強調する報道に偏っており、まったく異なったものに受け取られているという現実がある。介護の知的労働面や研修・学会などでの発表の機会は重要だ。また、地方自治体の介護職員の研修支援体制も充実する必要がある。杉並区では、「職員のスキルアップへの投資は、高齢者へのサービスの質の向上という形で帰ってくる」と考えている。
終わりに、地方議会議員の役割についてだが、地域自治体病院の存続の危機の時代に地方議会議員の役割は大きい。しかし、その一方で、病院の足を引っ張る議員が多いのも事実だ。医療や病院経営についての確かな知識をもって発言することが重要であり、思い込みや勘違いの発言は、かえって問題を悪化させる。「人任せ」では地域は崩壊する。住民が「当事者」として地域のこれからを考え、行動することが必要だ。自分たちの健康に関することであればこそ、地域医療・介護の再生は民主主義の再生につながると信じている。
1件目の、『地域を消滅させないために何が必要か━持続可能な医療・介護』の報告を終わります。