本当に久しぶりですが、香川県教育カウンセラー協会の総会と研修会に参加することができました。会員になって10年近くになるでしょうか。ずっとご案内をいただいていたのですが、いつのころからでしょうか、まったく都合がつかず欠席続きだったのです。参加できるときはできるもので、できないときはできないものだと、当たり前のことを感慨深く思っています。
平成28年5月7日(土)に開催された、「2016年度香川県教育カウンセラー協会 第1回研修会」は、総会と同時に行われる研修に相応しいものでした。講師は、香川大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻教授で教育学部付属教職支援開発センター長である、七條正典先生でした。テーマは『教育相談に期待すること』で、私にとって、教育現場に求められる教育カウンセラーの、基本的姿勢の再確認をするために最適の内容ででした。
教育大学院のシンボルは紙飛行機だ。NHKの連ドラの「あさがきた」の主題曲は 365日の紙飛行機 だが、歌詞の内容が人の生き方を紙飛行機に例えて、前向きで希望を感じるものであり、教育相談やカウンセリングの在り方を表しているようだ。また、今放送中の「ととねえちょん」では、植物の研究に熱中し地面しか見ていなかった大学生が、あるきっかけで空を見て月が美しいことに気付く。視点を変えることでものの見え方が変わるし、目の前にあるのに気付かなかったものが見えてくるのだ。教育相談や生徒指導では重要な要素だ。
教育相談は、「好ましい人間関係を育て人格の成長への援助を図る」もので、特定の教員だけが行う性質のものではなく、相談室だけで行われるものではない。
生徒指導は、「教師と生徒の信頼関係と生徒相互の人間関係を育てる。生徒が自主的に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことができるよう」指導・援助することだ。言わば、『自己指導能力』の育成を目指すことだ。
教育相談は、個に焦点を当てる。一方、生徒指導は集団に焦点を当てる。この2つの関係と目的は、個→社会→自己指導能力 へ発展させ、『社会的自己実現』に導くことだ。言い換えれば、《集団社会の中で自己を生かせるようにする》ことだ。
教育相談の基本は、傾聴を中心とするカウンセリングであるため、教師は基本的なカウンセリング技法を習熟しておくべきだ。教師が問題を解決するのではなく、本人が解決できるようガイダンスするということだ。例えば、旅行者の希望を聞いて、ガイドはそれが叶うようメニューを提案してあげることと同じだ。
生徒指導もカウンセリングもそのエッセンスは、児童生徒の問題解決や成長を促す「援助的コミュニケーション」にあると考える。さまざまな問題解決の支援と、成長促進への支援で、『成長促進型生徒指導』とすることで『自己指導能力』の育成に向けていく。要点として、教育相談やカウンセリングとの連関を大切にして、3つの指導原理で援助する。 ①子どもの自己理解を尊重する ②子どもの問題解決力を援助する ③価値観の提供など開発的な援助を工夫する
学校で教育相談活動を行うとき、その方法としてカウンセリングの発想で子どもにかかわってみる。要点を4つにまとめる。 1.子どもの言葉に真剣に耳を傾ける 2.子どものありのままを受け入れる 3.子どもの自己指導の力を大切にする 4.日々の子どもとのかかわりを大切にする
次に、教育相談において「つなぐ」ことは重要だ、カウンセラーが相談室でできることには限界がある。問題解決には、子どもをとりまく人的資源を生かし「つなぐ」ことが欠かせない。「今日、この時」でなくてはならないことがある。「つなぐ」とは、そのタイミングを逸しないための重要な選択肢の一つだ。日ごろから人間関係を良好なものとして、素早く対応するためのチームによる支援体制や、ケース会議を組織することも有効だ。
最後に、「成長促進型生徒指導」の視点を生かす要点を5つあげる。 ⑴問題解決に向け「考える」場や機会の提供 ⑵視点の変換を促す「変える」資料や情報の提供 ⑶それぞれのよさを「生かす」場や機会の提供 ⑷互いの関係を「深め・広げる」場や機会の提供 ⑸自尊感情・価値観を「高める」場や機会の提供
冒頭で、視点を変えることで月が美しいことに気付く話をした。同じものを見ていても違うものに見えたり、そこにあるのに見えなかったものが見えるようになったりする。心も在り様や考え方、思い込みを、資料や情報の提供、場や機会の提供によって、新たな気付きに導いて欲しい。その一つの方法として、教育カウンセラー協会の事例研究発表会は有効であると考える。研修を重ねていくことを期待している。
自分の置かれた環境や現実を変えることはできなくても、自らの視点を変えることで世界が変わります。そのことに気付くために、教育相談も生徒指導も「つなぐ」ことが重要なのだと、再認識したのでした。