5月19日(火)と20日(水)の2日間、奈良市で開かれた 自治体問題研究所 の企画で、自治体研究社 主催による、「市町村議会議員研修会」に参加しました。
1日目の全体会は、大阪自治問題研究所理事長で、関西大学商学部教授の鶴田廣美先生による、記念講演がありました。
2日目の4っつの専門選択講座では、作新学院大学教授の太田正先生の 「基礎から学ぶ、公営企業会計のしくみ」を選択受講しました。
鶴田先生の記念講演は 「地方分権改革と道州制」 と題して、地方分権改革のこれまでと、市町村合併の先に企てられようとしている道州制を考えることで、新しいこの国のかたちを模索しようとするものでした。
以下、講演の報告です。
【地方分権改革が強く求められる背景と理由は、
1. 中央集権型行政システムの制度疲労
2. 国の関与に伴う負担の軽減と国際社会の対応
3. 東京一極集中の是正
4. 個性豊かな地域社会の形成
5. 高齢社会・少子化社会への対応
である。
この改革は、わが国の政治・行政の基本構造を大元から変革するもので、明治維新・戦後改革に次ぐ 『第三の変革』 である。
「地方分権一括法」 が2000年に施行されることによって、国・地方の関係を従来の上下関係から対等・協力関係へ、更に地域社会の自己決定・自己責任を拡大して行くことを目的に、地方分権は大きく動き始めた。
「第一次分権改革」の成果として、
第1に、機関委任事務の廃止により国の関与の廃止・縮小がおこなわれ、自治事務と法定受託事務に分けられ、いずれも「地方公共団体の事務」として明確にされた。
第2に、国と地方の関係は対等とされ、国・地方の係争が発生したときの処理手続きが創設され、法的に対等関係が保障された。
「第二次分権改革」の焦点として、地方税財源の充実確保策がある。
この問題は、 「国と地方の税源配分のあり方と、国庫補助負担金、地方交付税のあり方の改革の切り口」 で検討されることとした。
第一次を第一ステージとして、「歳出の自治」の確保と位置づけ、第二次を第二ステージとして、「歳入の自治」の取り戻しと位置づけることができる。
「地方財政の健全化」を掲げ取り組まれたのが、「三位一体の改革」である。
「三位一体の改革」は、地方自治の発展のための、税源移譲と一般財源保障を図ることが最優先で取り組まれなくてはならなかったにもかかわらず、実際は、「国の財政再建」を優先したものとなった。
不十分な税源移譲のままおこなわれた補助金の削減と、地方の事情を無視した地方交付税の削減がその証である。
地方分権改革のもと、「三位一体の改革」とともにおこなわれたのが「市町村合併」である。
「地方分権一括法」施行以前に3,000以上あった市町村が、今や1,800に減少した。
明治の大合併が義務教育の小学校を整備するための町村規模を目標におこなわれ、昭和の大合併も中学校の設置管理や治安・社会福祉などの新たな事務処理のためにおこなわれた。
しかし、平成の大合併は地方に対して確たる合併の目的を示すことなく、しかも、確かな交付税措置の裏づけの無い中での「合併特例法」による財政措置によって、破たん前の市町村に幻想を与え駆け込み合併に追い込んでいった。
この点でも、地方分権改革を叫びながらも財政削減による「国の財政再建」が、最優先目的であることがうかがい知れる。
地方分権改革には、「競争的分権」と「連帯型分権」の2つの考え方がある。
「競争的分権」とは、アメリカの規制緩和による新自由主義である。
「連帯型分権」とは、ヨーロッパの維持可能な社会を目指すことだ。
今進められているのは「競争的分権」であり、交付税削減を迫りながら地方の自主自立という負担を求める方法である。
これに対し「連帯型分権」は、地方固有の交付税を改革・充実しつつ、地方に権限と税源を移譲する方法だ。
「地方分権改革」は、この2つのどちらが “この国のかたちとして相応しいのか” が争われているといえる。
道州制は、歴史的にも太平洋戦争中の全国を8つの軍管区と重なる「地方総督府」を設けるなど、行政と軍事を一体化した地方行政統制制度が構築されていたことなど、「集権的な国家統治の制度整備」のイメージがつきまとう。
現在の道州制議論も、経済界からの意向が強く反映されている。
経済開発や地域開発を進める上で、より広い広域開発をスムーズに進めることを可能とするための要求が強いといえる。
今議論されている道州制の求める国のかたちは、「小さな中央政府」と「小さな地方自治体」である。
中央政府の役割は、
「グローバル世界の中で存在感のある国家をめざし、国家の意思として必要な国独自の権限に基づくものに限定する」として、「国境管理、国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国に統一すべき基準の制定に限定」するとされる。
そのほかの「権限、人、予算」は州政府・市政府に移譲される。
問題は、これらの事務配分をどのような予算と人員でおこなうのかということだ。
想定される予算規模と人員は、実質的な政策経費の地方への重点配分とはいえない。
これはまさしく、「小さいが強権的な中央政府」と「小さい低福祉の地方政府」という、最悪の組み合わせである。
そうならないために考えられる地方政府(府県)機能は、
① 広域的機能
② 先導・補完機能
③ 支援・媒介機能
である。
地方分権と維持可能な社会の構築に向け、新自由主義による「競争的地方分権」に対し、維持可能な社会をめざす「連帯型地方分権」を求める思想と運動が高まっている。
スウェーデンなどの北欧福祉国家は、「小さな中央政府」と「大きな地方自治体」の組み合わせである。
中央政府は、自治体に財源と権限を保障し、福祉給付と人的社会サービスの多くを地方自治体にゆだねている。
地方自治体の担う地方の福祉サービスの公共部門が、雇用確保の上で重要な役割を果たしている。
地方自治体は福祉サービスや社会保障給付において、大きな役割を果たすのである。
このような政策体系は、まさしく連帯型の地方自治体であり、新たなこの国のかたちとなりうる。
このような方向に地方分権改革の目的を求めない限り、いかなる地方行政統治制度(道州制)の導入があったとしても、日本の再生と地方の繁栄はありえない。】
次回は、2日目の報告をします。