市民自治と新しい公共

片山善博氏が鳥取県知事であった昨年までの3年間、鳥取県で「地域の自立と再生をめざす “鳥取自立塾”」が開催されていました。
分科会講師の一人として福島浩彦氏の名があり、協働による市民参加の地方自治のお話をお聞きしたことがありました。
福島さんは1956年鳥取県生まれで、’83年から千葉県我孫子市議会議員を12年間務め、’95年に38歳で市長となり、2007年1月まで3期12年務めてこられました。
10月13日(土)、高松市で現在中央学院大学客員教授の福島さんの講演がありました。
テーマは「市民自治と新しい公共」で、官と民の新しい関係についてのお話でした。
人口13万人、予算規模300億円ほどの我孫子市で、市長としてどのような考え方で市政に取り組んできたのか。
市長を務めた12年間、最も大切にしたのは「市民自治」という理念だ。
「市民自治」とは、市民自らがまちづくりを考え、市民自らがそれをやってゆくことだ。
この取り組みの努力そのものが、活力ある豊かな住みよいまちに繋がってゆくのだ。
これまでは公共は官がやること。
民は官の下請けであった。
これからは“市民の自立した活動”と“主権者である市民のコントロールの下にある行政”が連携して、「市民自治」を理念とした「新しい公共」を創ってゆかなくてはならない。
「新しい公共」では、行政は市民の自立した活動を支え、公共全体のコーディネートの役割を担う。
公共を官が独占する時代は終わった。
我孫子市では、市のすべての事務事業(1,100以上)を例外なく対象として、民間から見てやりたい事業の民営化提案の募集を行った。
85件の応募があり34件を採用した。
採用の審査は、行政の都合ではなくサービスを受ける市民の納得が必要であり、基準は民間と行政の連携において市民のより大きな利益になるのかということだ。
民間に任せた方が良い事業と、どうしても市がやらなければならない事業をしっかりと見極め、民と官の役割の分担を考え直すことだ。
言い換えれば「大きな公共」と「小さな政府」と言うことだ。
“市民が行政をコントロール”する基本は選挙だ。
ローカルマニフェストは重要だ。理念と将来像が描かれ、このまちをどうするのか、どんな地域にするのかが見え、そのための具体計画と数字が入っているものでなければならない。
もう一つは、市民が日頃から直接参加し、行政に市民感覚を高めさせることだ。
たとえば、聖域といわれてきた予算編成や民間試験委員制度による職員採用への参加など、財源確保として市民債の公募にも市民が積極的に参加することだ。
また、議会への参加もある。議員は市民の代表ではなく市民の代理人である。審議過程への参加や、議員立法への参加も考えられる。
市民のこのような参加は、直接民主制により近い間接民主制として質を高めることができる。
市民参加によって、市民が行政を変えることに繋がってゆく。
議会の意識改革が求められる。
地方自治体政治に「与党」「野党」はいらない。
二元代表制によって、市長も議員も市民による直接選挙で市民の代理人として選ばれているのだから、市民の前で議論することが大切だ。事前協議などいらない。
議会の役割は、市民の意見を集約することと、行政の監視をすることだ。
特に、市民の意見の集約(合意形成)は議員同士の自由討論が不可欠だ。
様々な意見や利害関係を持った市民が、思い思いに行政に要望を突きつけているようでは、「市民自治」など夢のまた夢だ。市民も「市民自治」に相応しい力を付けなければならない。
異なる意見を持つ市民同士が、お互いに納得できる合意を自ら導き出す力が必要だ。
そこでの行政の役割は、市民の対話をコーディネートする力を持たなければならない。
市役所は、まちづくりの目標や夢に向けて、市民を下支えし実現に向けてのコーディネーターとならなくてはならない。
講演の最後に福島さんの、『理念は「市民自治」とはいうものの、心地よく管理して欲しいと思っている市民は多い』との言葉が強烈に頭に残っています。
市民との徹底的な議論の中で、行政も市民もそして議会も成長し合意形成力を養ってゆくのだろうと思うのです。