地域医療政策セミナー研修報告 他

令和5年10月31日(火)、東京都内にある都市センターホテルで開催された、全国自治体病院経営都市議会協議会の主催による『第17回地域医療政策セミナー』及び、11月1日(水)の官公庁訪問の報告をします。

医療政策セミナーでは2件の講演がありました。

 

1件目  「地域包括ケアシステムを支えるICTの仕組みづくり」 守屋潔氏(名寄市役所健康福祉部、名寄市立総合病院情報管理センター長)

母親の介護体験から、〈治す医療〉だけではなく〈支える医療〉があることに気付き、ICTネットワーク構築に取り組み始めた。ちょうど令和6年度の医療、介護、障がい者支援のトリプル同時報酬改定が議論されていた。2025年以降の医療・介護提供体制の姿の3つの柱は、①『医療・介護を提供する主体の連携』により、必要なときに「治し、支える」医療や個別ニーズに寄り添った柔軟かつ多様な介護が地域で完結して受け入れられること ②地域に健康・医療・介護等に関して必要なときに相談できる専門職やその『連携』が確保され、さらにそれを自ら選ぶことができること ③『健康・医療・介護情報に関する安全・安心の情報基盤が整備』されることにより、自らの情報を基に、適切な医療・介護を効果的・効率的に受けることができること となっている。これを医療DXにより、名寄市のすべての医療介護連携を改善しネットワークで実現した。

名寄市医療連携ICTのコンセプトは、1)病院の視点:名寄市立総合病院と地域の連携効率化 2)ケアマネージャーの視点:ケアマネージャーの業務負荷の軽減 3)市の視点:市が中心になって地域で1つのネットワーク(地域完結型)をつくる ということだ。そのために、医療の情報と介護情報を1つのパソコンで全て見えるように構築していった。情報の性質として、ストック情報の【ID‐LINK】とフロー情報(日々の情報のやりとり)の【Team】で構成されており、市が積極的に声がけすることで、全員参加することができた。

情報・データ等を機能効率しても、ICTのIだけでは動かない。Cのコミュニケーションが重用であり、自分たちでつくろうという当事者としての共感が加わって初めて動き出す。

名寄市の取り組みからのヒントとして4点あげる。●介護者にとって最も必要なのは利用者の正確な医療情報であり、医療連携の基盤の上に介護連携、医療介護連携が成り立つ ●自治体が事務局となり、地域全体の最適化=地域包括ケアシステム構築のためのICTであることを明確にすること ●ICT業者丸投げにせず、現場の声を引き出す、当事者意識を持たせるファシリテータの助力 ●機能よりもランニングコストを最小化して継続性を重視し、機能不足は運用で補うこと だといえる。ICTネットワーク構築の費用は、初期投資約2千万円、維持運営費は120~130万円程度だ。

終わりに、「ストック情報は国がDX推進しているが、先ずフロー情報整備から取りかかり、参加する全ての人々が当事者意識を育むための共創の場づくりから着手してはどうか」 との提言があった。

 

 

2件目  「食支援の京のまちづくり~新たな医療産業連携の試み~」 荒金英樹氏(愛生会山科病院消化器外科部長、京介食推進協議会会長、京滋摂食嚥下を考える会顧問)

京都の市中一般病院で一般消化器外科に従事している。人工栄養とがん患者の栄養管理を専門としており、疾患に応じた栄養支援をすることで、治療の下支えを行なっている。また、超高齢社会の招来による摂食嚥下障害、誤嚥性肺炎の増加に対し、院内の体制を整備するとともに、地域での医療連携、異業種との交流を通した「まちづくり」に取り組んでいる。

食を支える京都の医療・介護連携は、2008年の京都府口腔サポートセンターに始まり、2010年〈いつまでも食事を楽しめる京都、滋賀〉をスローガンに京滋摂食嚥下を考える会の発足、2012年山科地域ケア愛ステーション(現 京都市山科区在宅医療・介護連携支援センター)でき、2016年には京都府医師会在宅医療・地域包括ケアサポートセンター へとつながっており、訪問管理栄養士を広めている。

食を支える京都の医療・産業連携は、医療・介護連携だけではなく異業種連携により推進されてきた。京滋摂食嚥下を考える会を発足し、数々の「嚥下食プロジェクト」を発案実施してきた。有名料理店と連携した【京料理】、福寿園に依頼した【京のお茶】、京都府菓子工業会と協力した【京の和菓子】、伏見の老舗蔵元とコラボした「日本酒プロジェクト」、豆腐を飲み込みやすくて美味しい「豆腐プロジェクト」、食器にこだわった「介護食器プロジェクト」などがある。極み付けは、「晴れの日の松花堂弁当」や、『せんしょう』の「やわらかおせち」となった。

多職種連携、地域連携による京都のまちづくりを推進するために、「京介食推進協議会を発足し、新ブランド『京介食』を立ち上げた。これまでの取り組みの中から、「食支援の京のまちづくり」の発想が生まれた。医療技術を産業の発展に使えないか。これまでは地域包括ケアシステムには産業界が入っていないため、利用者の意見が取り入れられていなかった。医療を介して利用者の意見を取り入れ、新たな医療・産業連携に向けて、『京MED(キョウメド)』(京都×医療・介護分野への参入を目指すチーム)が発足した。

今、ポストコロナに向けて、京都府商工労働観光部ものづくり振興課と公益財団法人京都産業21の参画により、行政との連携が始動している。

 

『第17回地域医療政策セミナー』の研修報告を終わります。

 

11月1日(水)には、三豊市職員2名のそれぞれの出向先を訪問しました。一般財団法人地域活性化センターでは森亘輝さんに面会し、センターの役割や所属している企画・人材育成グループの業務等について説明をいただきました。また、経済産業省で業務に当たっている赤池賢史さんから、「工業用水道の現状と課題を踏まえた施策の取組状況」について説明をいただきました。お二人とも元気で業務に携わっているようでした。

忙しいところ時間を割いていただき、ありがとうございました。