公共施設再配置特別委員会 視察研修 報告Ⅲ

三豊市議会公共施設再配置特別委員会の視察研修最終日の3件目である、埼玉県深谷市における『マイナス入札の取り組み』の報告をします。

 

深谷市は、平成18年に1市3町の合併により新「深谷市」として誕生した。人口は約142,000人、面積は138.37㎢で、東京都心から70㎞圏にあり、群馬県に接した埼玉県最北端に位置する。近代日本経済の父と言われる渋沢栄一の生誕の地であるとともに、武蔵武士の鑑と称される畠山重忠の出身地であるなど、歴史に少なからず影響をあたえた興味深い土地柄である。

深谷市企画財政課公共施設改革推進室の大野氏より説明をいただいた。

マイナス入札のきっかけは、公共施設適正配置において施設の再編を進める中で、施設を廃止しても建物を解体しない限り建物は残り続ける。仮に市で解体して更地にしても、特に市街化調整区域は不人気で、必ず売却できるとは限らないとの問題を解消するために取り組んだ。

先行事例に北海道室蘭市があった。調査して弁護士に相談すると適正な対価であれば法に触れないとの返答があった。そこで、深谷オリジナルの制度構築をすることとして、予定価格をマイナスに設定した『建物解体条件付き入札』に着手することを決定した。

マイナス入札の制度とは、建物解体費が土地評価額を上回る場合、その差額を市が負担する仕組みだ。落札金額がプラスの場合は【売買契約】となり、マイナスの場合は【無償譲渡契約】となる。落札金額がマイナスの場合は、議会の議決が必要である。議決後本契約が行われ、落札者による解体工事確認後、市が落札者へ負担金を支払うとともに、契約保証金の還付並びに土地所有権移転登記が行われる。

マイナス入札には 費用面と時間面、+α の3つの効果がある。

費用面では ①入札執行時の直接的な削減効果━『一般的な売却』では市の積算による算出であるため高額となるが、『解体条件付き入札』では民間ベースの建物解体費となるため、民間ノウハウを活用した直接的削減効果が見込める ②市の事務効率化による削減効果━『一般的な売却』では市が建物解体業務+土地売却事務を行うが、『解体条件付き入札』では民間で解体するため工事業務の削減ができ土地売却事務だけの事務負担に削減できる

時間面では ①解体工期の短縮 ②工程間の短縮 ③よって全期間の短縮 が実現できる

+α の効果は 土地活用を前提で応札するため、更地後の売却不成立の回避効果があるほか、未利用であった私有地が速やかに活用され、固定資産税の増や管理費用負担削減の効果がある。

制度構築にあたってのポイントは ①予定価格の設定(もっとも時間をかけ客観性を重視) ②入札保証金、契約保証金、違約金の設定(土地の評価額に対して設定) ③用途制限(初回は住宅または共同住宅としたが制限は難しいため、2件目からは用途制限を付けず「土地利用計画書」の提出を求めた) がある。

その運用に当たっては ●「入札参加申し込みの期間」入札公告から入札参加申し込みの期間は、十分に確保すること(2か月間) ●「解体する建物の確認」解体する建物は、現地と建築図面を十分に確認すること ●「入札参加資格審査」確実な契約の履行を確保するために、契約の相手方として適正かどうかを慎重に行う(買戻し契約は必須) に十分に留意した。

マイナス入札実施の対象物件の決定は、過去2回建物活用型で入札公募したが不調であるとともに旧耐震の建物であることや、老朽化も著しく進行している旧中瀬小学校体育館敷地とした。この地は、都市計画区域外のため利用の自由度が高いこともあった。平成30年に実施され、予定価格▲13,406000円に対し落札金額は▲7,950000円で、全国初のマイナス価格での落札決定となった。2件目の実績は、令和2年に実施された旧本郷農業総合センターで、予定価格▲17,282000円に対し落札金額は▲17,080,000円の落札決定となった。

現時点でマイナス入札の実施は、全国で平成30年から令和3年までの間に5件あり、4市において行われたが、結果としてマイナス入札が成立したのは深谷市と室蘭市のみであった。他市の例は大幅なプラス入札となっている。

 

深谷市では、公共施設適正配置啓発資料の作成を推進しています。市財産処分には市民理解が欠かせません。そのために市民向けの漫画を作成したり、職員向け庁内啓発資料を作成するなどして、長期的な取り組みを進める上で意識の醸成に注力しています。そこでうったえているのは、「一人ひとりが今の現状を理解し、住みよいまちにする努力が必要なんだということです。私たちの住んでいるこの場所はこれからどうなっていくのかではなく、自分たちが今できること、すべきことを一人ひとり考え理解・協力をしていくことなんだということ」です。

深谷市職員さんからの説明の最後に、「自分事として考える」「経営的発想をもってできる理由を考える」「当たり前とされていることに疑問を持つ」の言葉に、「やればできる」「やらなければならない」という、活力を持った深谷市の姿が印象に残った研修でした。

以上で、3回に渡った報告を終わります。

公共施設再配置特別委員会 視察研修 報告Ⅱ

2件目の視察研修は静岡県焼津市です。

 

焼津市は、平成20年に1町を編入し人口約137,000人、面積70.30㎢となっている。かつては、遠洋漁業の基地として全国有数の水揚げを誇っていたが、現在は都市化が進み『第6次焼津市総合計画』のもと、市民や事業者、行政が相互協力・連携し「より魅力あるまちづくり」を進めている。

焼津市の公共施設マネージメントの取り組みに至る経緯は、平成20年度ころ厳しい財政状況の中施設の老朽化が進行し、少子高齢化や人口減少等の社会環境の変化への対応が求められるなど、公共施設を取り巻く環境は厳しいものとなっていた。庁内においては、公共施設のデータが一元化されておらず、所管部署ごとによる分散管理体制となっていることが、企画担当・行政改革担当・建築担当部門では課題認識されていた。

このような状況の中、平成20年に耐震対策計画を策定していた当時の担当者が、市有施設の抱える課題に気づいた。●市有施設の老朽化 ●厳しい財政状況 ●一元化されたデータの不在 ●所管部署ごとに分散管理体制 ●社会情勢、ニーズの変化への対応 このような課題解決に向けた取り組みはないのか?子や孫の世代にそのまま引き継ぐのか?というものだった。

公共施設マネジメントを始める際に留意したことは ①施設所管課と資産経営課が共に考える仕組みづくり ②管理の徹底 ③経営的な視点の導入 であった。具体的な進め方は、総合的かつ計画的に管理するための大方針として、『公共施設管理計画』を策定し、体制構築、評価、個別方針、実践 とすることとした。

推進環境の整備は、縦割り構造を発想の転換により、横断的な複合化・多目的利用等データを一元化し、横断的な企画・運営・管理と効率的な財産移管の実施を行うことから始めた。そのうえで、財政担当・公共建築担当・公共施設マネジメント担当の連携による推進体制の強化を行った。

組織体制は、トップマネジメント(首長のリーダーシップ)により庁内検討組織の推進体制の整備が行われた。市長を議長とする「行政経営会議」を最終政策等決定会議と位置づけ、その下に行政経営部担当副市長を本部長とする「公共施設マネジメント対策本部」を置き、次に行政経営部長を委員長とする「公共施設マネジメント検討委員会」を、そして個別施設計画アクションプランの検討をする「個別施設計画アクションプランに基づく個別、専門部会」を配し構築した。

「個別施設計画アクションプランに基づく再編実績として  【統合・集約等】では ●新庁舎の再編(現地での建て替え) ●和田公民館の再編(隣接する小学校校舎との複合化) ●放課後児童クラブの再編(民間施設活用による増設) 他がある。  【維持管理・運営】では ●文化施設の管理運営に関する改善方針 ●図書館、公民館、体育館等のあり方及び改善の方針による、事業収益増や経費削減等の実績がある。

 

焼津市がこれまでの実績を上げるには、市民の大小様々な意見や要望に対して、地道に対応し、積み重ねてきた成果なのだろうと思います。当時の担当職員の危機感に応え、市のトップである市長のリーダーシップにより、全庁内上げた組織としての公共施設マネジメントの取り組みに向け、大きく展開していったことを理解することができました。行政の、現実を見極め未来を見通す感性と理性の重要性を強く感じる研修となりました。

 

 

公共施設再配置特別委員会 視察研修 報告Ⅰ

三豊市議会公共施設再配置特別委員会の視察研修に、令和4年(2022)11月7日(月)~9日(水)の3日間参加しました。視察研修先は、1日目に滋賀県高島市、2日目に静岡県焼津市、3日目に埼玉県深谷市の3市です。

 

高島市は、平成17年に5町1村の合併により誕生した。現在人口は約47,000人で、面積は滋賀県で最も広い693.05㎢(琵琶湖面積181.64㎢含)だ。

『公共施設再編の取り組みについて』高島市総務部行財政管理局行政管理課の上原課長と鈴木氏から説明をいただいた。

合併により同種・同機能の公共施設を有することとなった。そこで平成26年に高島市公共施設等総合管理計画を策定した。計画の趣旨は、旧6町村から引き継いだ各施設が、全国の人口規模類似団体や県内他市平均と比較して大変多い状況となっている実状と、人口減少や少子高齢化、地方交付税・市税の減少、扶助費等の義務的経費の増大が決定的状況にあり●施設の効率的かつ効果的な維持修繕 ●保有する公共施設等の総量の最適化 等が必須であることから策定することだ。

計画期間と削減計画は、平成27年度から令和26年度までの30年間で延べ床面積を半分にする計画で、令和6年度までに10%、令和16年度までに20%、令和26年度までに20%とし、50%の段階的計画をたてている。第1段階目標である令和6年10%削減目標は、現時点で5%強程で合併特例債期限が迫る中、旧町村とのバランスに苦慮している現状だ。

公共施設等のマネージメント推進の基本方針は ①次世代の継承可能な施設保有(施設保有量の縮減) ②将来にわたり必要な施設の計画的な維持更新(長寿命化の推進)として、 公共建築物(ハコモノ): ●新規整備は原則として行わない ●施設の更新(建て替え)は複合施設とする ●施設総量(延べ床面積)を縮減する  インフラ資産: ●ライフサイクルコストの縮減に努める  こととした。

この方針に基づき、各施設ごとの再編の方向性等を示した「高島市公共施設再編計画」を、平成27年に一般財団法人地方自治研究機構と共同で策定した。また、インフラ資産は将来負担コストの低減と財政負担の平準化を図るため、順次種別ごとに長寿命化計画を策定している。

個別計画における再編パターンの考え方には ①公共施設の譲渡・廃止 ②公共施設の多機能化(集約化・複合化) ③用途を変更し存続する公共施設(転用) ④維持する公共施設 があり、副市長をトップとして市行財政改革推進本部(計画構築・推進管理)がマネージメント機関となっている。

公共施設再編の推進は、市民アンケートによると総論賛成だが各論反対は根強いため、総論の理解を得ながら各論を進めなくてはならない。そのために、受益者だけでなく負担者の意見を聞く必要があり、【子どもや孫の世代につけを回さない】ことに尽きる。

職員一人ひとりがどうすればよいかを考えねばならないため、そのための人材育成が求められる。今後とも職員一丸となって取り組んでいく。

 

高島市のおかれた現状は、三豊市を鏡に映したような実態であり、合意形成の厳しさや痛みを突き付けられました。取り組みの中に二元代表制における機関としての議会の関りが薄いように感じたことで、三豊市議会としての機関組織としての取り組みの重要さを再認識した研修でした。